29 May見なきゃよかった・・・。

技量審査場所を終え、ここのところ断髪式ラッシュ。
もちろん、場所前大量に引退した力士たちの、だ。
ホテルの会場や部屋など、場所はそれぞれ。

国技館でも、28日は春日王、
今日29日は安壮富士の断髪式があった。

ほとんどの断髪式が引退理由が理由なだけに、
「報道陣は取材禁止」「非公開」
ということだった。

たぶん23人の力士たちの断髪式が、メディアで報じられることはないだろう。

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今日、たまたま国技館内の記者クラブに用事があった。
警備員も、
「今日は報道の方は入れませんが・・・記者クラブに御用ですか?」
「はい、そうです」
結構厳重なのね・・・。

「ちょっとだけ見てみるか・・・」
断髪式を覗いてみた。
ちょうどご親族や、師匠の止めバサミの時間だった。

     見なきゃよかった。

今まで、数々の断髪式を見てきた花子だが、
こんなに静かな、こんなにもの哀しい、こんなに辛い断髪式は花子は知らなかった。

失礼かもしれないが・・・「お通夜」のようでもあった。

呆然。

写真1枚撮っておくか・・・とカメラを手にしていたが、
とてもじゃないけれどシャッターを押せなかった。

本当に、大げさではなく「衝撃」を受けてしまい、
なんだか体から力が抜け、放心状態・フラフラ状態で家路を急ぐ。

「ちゃんと食べてないからフラつくのかしら」
と、「やよい亭」で「塩さば定食」を食べてみるのだが。
ふと涙ぐんでしまう花子。
塩さば食べながら泣く中年女って何よ。
あ。今思い出した。冷奴の小鉢、なぜか食べるの忘れた・・・くやしい。

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親族や友人や近しい後援会の方々だけが見守って。
涙して、拍手して。
おそらくかつては付け人をしていただろう若い力士たちが、
後方から、またそれを見守っていて。

    23人分、こんな哀しい断髪式があるのか。

   見なきゃよかった・・・・・いや。見てよかったんだ。

   彼らの涙を知って、花子はそれを血と肉にさせてもらうから。

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こんな、ひっそりとした断髪式が人知れずあったのを、
誰に知ってもらいたいか。
誰に見てもらいたかったか。

理事長? 違う。
調査委員会のおっさんたち? 違う。
文部科学省のお役人たち? 違う。

   「敵」が見えない。わからない。

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家に帰って「ああ! カメラ忘れた!」と、国技館に戻る。
パーティ前の受付で尋ねると、「届いてませんねぇ」と。
館内の清掃員のお兄さんたちに、
「カメラありませんでした~?」
なんて大声で声を掛けていると、ある力士がわざわざ届けてくれた。
「これですか? 今、入れ違いで受付に届きましたよ」
「ありがとう~! なんだかね・・・あまりに哀しすぎて頭が飛んじゃってね・・・」
「ふふ、そうなんですか」
「ホント、それぞれにいろんな思いがあるだろうね。あなたも・・・ね。頑張りましょう」
「・・・はい」
若い力士はうなずいて、「泣きそうな笑顔」でカメラを渡してくれた。

            そうか。花子はこの断髪式、見なくちゃいけなかったんだ、と今思う。