29 Marパパの「さいごのおすもう」。

大阪場所、14日目。
勝敗上は、もう幕下陥落が決定的ではあった。
雅山の相撲を見ようと、控えている彼の対面…空いてる2階席にひとり座ると、
次男を抱えた雅山夫人のユカちゃんが、「花子さん!」と駆け寄って来た。
もう、ポロポロ泣いてる。
「何、泣いてるのよ~? まだ早いでしょ?」
「なんだか、花子さんの顔見たら心強くて…」
「おいおい、まいったなぁ。オンナの涙には弱いのよ~」
なんて、花子もなんだか「つられ涙」。
ふたりのお子さんのほか、雅山のお姉様もいらしてて、みんなで見守った。
いい相撲だったけど、最後にもう一歩が出ず。残念。
「明日も一緒に応援しようね」と、夫人たちと別れた。

今場所は、ずっとご家族で大阪に応援に来ていたという。
そして、パパの取り組みが終わった後に、府立体育館近くの小さな公園で待ち合わせ、
つかの間の「逢瀬」をするらしい。
昔気質の雅山は、家族が来てるからってホテルに一緒に泊まることなどせず、
毎日、きちんと…1時間近く掛かる宿舎に帰るのだ。
たまたま付け人クンにこの時の話をしたら、
「おかみさん…ユカさん、泣いてたんですか? 公園で会った時は、
いつもどおりニコニコ笑ってたから、『強いヒトなんだなぁ』なんて思ってたんスけど」。

いや。ぼろぼろに泣いてました。
たまたま雅山と話す機会もあったのだが、
「え? あいつ、泣いてたんですか?」
旦那さえビックリするほどだった。エライぞ、ユカちゃん。
タタカウオトコに、涙は見せなかったのね。

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そして、千秋楽。
もうこの日を最後と心に決めていたのか、パパ…雅山は、
場内を感慨深げに見回してた、気がした。
おそらく目に入っているであろう「家族たち」のほうには、
あえて視線をくれないようにしてる、そんな気もした。

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連日、通路の定位置で申し訳なさそうに応援していて、
ご家族は警備のおにいちゃんとも顔見知りになっていたみたい。
「ボンナカ」きかしてくれ、
「いいですよ、思い切り応援してくださいよっ」って感じでもあり。
「雅山関の一番だけは」と、事情を知らないほかの警備員のアンチャンに、
こそっと耳打ちして「見逃して」くれてもいたようだ。

長男のマサトシクンが、タタタッと走って、パパの真正面に。ずっと見てる。
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パパが土俵に上がると、夫人も思わず駆け寄って、真正面に。
ぐずる次男のマサタカクンを抱き、じっと最後の相撲を見守る。

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……やった! パパ、勝った、 勝ったよっ!

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パパ、やっと僕たちのほうを見てくれた。
「どうだ! 見てたか? パパ、強かっただろ?」

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そのまま、引退会見。パパ、泣いちゃった。
まだまだできる気力はあるのに、カラダがついていかない悔しさ。
まだまだ、強いパパを見せたかったんだ。

そして、パパは花束をもらった。

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パパのパパ……おまえたちのおじいちゃんが亡くなる前、
最後にくれたプレゼントの、「エンジ色の締め込み」。
何本も締め込みは持ってたけど、これは、ずっとボロボロになっても使ってたんだよ。
現役最後の、この日まで。

花束のリボンも、同じエンジ色だった。
パパのこの日を、かすかにでも憶えていてくれたら、それだけでもいいんだ。
応援、ありがとな。パパ、カッコよかったか?

  ……そんな「ある力士」の、「ある家族」の、
  「ある場所」のある1日、ひとつの風景。